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                                                                                                               LOVE LETTER






                                                                        
「盗み見は感心しないな」

後頭部から声が振ってきて 口から心臓が飛び出すかと思うくらい驚いた

「…ごめん」
思わず握り締めてしまい 少しヨレてしまった紙を 隆一が俺の手から取り上げた
見つかってしまったバツの悪さもあったが
それよりも この紙を隆一が受け取った事のほうがショックだった

それは ワープロ打ちされた紙切れだったが 送り主は自分を「俺」と書いていた

しかも そこには 『こんな気持ちを持った事に最初は自分でも驚いた』とか
『ずっとあなたを思っていた』だとか『きっと貴方は私の気持ちに気がついていたと思う』とか
文章の感じからいって 間違いなくラブレターだ 

トドメには なんと


『ここまで読んでくれたのなら 俺の気持ちは伝わったと思うから答えが欲しい
 4月25日 午後7時頃 プレジャーホテルのラウンジで待っている』

と あった

…25日の7時って あと1時間も無いじゃないか

信じられない…まさか隆一が?
手紙に綴られた言葉が頭の中をグルグル駆け巡って 俺は言葉も出ないまま立尽くした

隆一はルックスもいいし頭もキレる 特定の彼女はいなかったが女には不自由するタイプではない
大学時代時代から ずっと一緒だったのだから それは俺が一番よく知っている
誰かに思われて 手紙を貰う事くらい信じられない事じゃない

そうではなくて 「男からの手紙を受け取った」事が信じられないのだ

「反省してるのならいい お前が来るのに置きっ放しにしていた俺も悪い」
そう言って隆一は その手紙を大切そうに机の中にしまう
もともとあまり表情を表に出さないポーカーフェイスの隆一の横顔からは何も解らないが
そんな風に手紙を大切に扱っているという事はまんざらでもないという証拠だ
鳩尾のあたりがキリキリと締めつけられるように痛んだ


「隆一…お前いつから宗旨変えしたんだよ」
声が震えた 
冗談っぽく言うつもりだったのに気持ちを抑えられなくて責めるような口調になってしまった
「そんなつもりはない」
いつものポーカーフェイスで それ以上何も話そうとしない隆一に 
ついカッとなって掴み掛かってしまった

「じゃあどういうつもりだ?! 相手はどんなヤツなんだ 俺の知ってるヤツなのか?
 それとも会社の同僚なのか?何で何も話してくれないんだ そんなに俺は信用ないのか?
 お前が男に興味があるなんて知らなかったよ!!俺は 俺はっ…」

そこまでイッキにまくしたてて我に返った 危うく全部言ってしまうところだった

隆一が珍しく驚いた表情を見せている

「雅之?」
「…」
掴んでいたシャツを放し 俺はベットに腰掛けた
隆一が出張から帰ってきたと連絡があって 3週間ぶりに逢えるのだと思うとたまらなくて
有無を言わさぬ勢いで押しかけてきたが まさかこんな事を知るとは思いもよらなかった

 

・・・

・・・


あれは俺達が大学2年になったばかりの頃
後輩の男が 隆一に酔った勢いで告白してきた事があった

サークルの飲み会で居酒屋へ行った帰り 二人きりで話があると俺と隆一の後を追ってきたのだ

「君と二人で話す必要性を俺は感じない 人前で話せないような事を俺に言う程
君との間に信頼関係を築いた憶えは無いがな」

なんとなく後輩の思いに気がついていた俺は 彼には気の毒だったが
隆一の反応が知りたかったので そのまま図々しくその場を離れなかった

それでも彼は俺の見ている前で 顔を真っ赤にさせながら 大学に入ってすぐ一目ボレだったと
同性ではあるが隆一の事が好きだと 必死で気持ちを伝えてきた

全く表情を変えずに 彼の告白を聞いていた隆一は最後に

「同性には全く興味がない 生産的ではないし そういう思いを知らされる事自体 嫌悪感を抱くよ
何を期待して言ってきたのか知らないが 俺は自分が好きでもない人間には好かれたくない主義
なんでね 俺はそういう人種なんだと思って これからは視界に入らないようにして欲しい 迷惑だ」

そう冷たく言い放って 後輩と一緒に俺までもが凍りついた
後輩は酔った勢いだったと言って謝っていたが 多分そんなに酔ってはいなかったと思う
彼の酷く傷ついた表情と自分がダブって まるで自分が玉砕した気分だった

俺も大学に入ってすぐ隆一に一目ボレだったのだから・・・

いつか気持ちを伝えようと あの日までは思っていた
けれどあの時の隆一の言葉を聞いて 一生胸にしまっておこうと決心した

「それなのに…」
「何か言ったか?雅之」
項垂れている俺を尻目に 隆一は腕時計を嵌めている
部屋に戻ると まず腕時計を外すのは隆一の習慣だ 嵌めたという事は外出する気だ
見なれたその仕草に 手紙の呼び出しに応じる気なんだと思うと酷く動揺してくる

あれから6年経ったが 隆一への思いも友人としての付き合いも変わらず続いている
別々の会社に就職した今でさえ こうして連絡を取り合って逢えるのを嬉しく思っていた
隆一に蔑んだ目で見られて 離れ離れになってしまうくらいなら
一生友達でもいいから傍にいたいと それだけを願っていた

けれど 今のこの状況で そんな綺麗事では到底納得できない自分がいた
他のヤツに取られるのを指を加えて見ているだけなんて出来そうもない 相手が男なら尚更だ

「お お前がホモだとはな 随分とお前の主義に反する非生産的な趣向じゃねぇか 
 男相手に勃起するなんて信じられないね 気持ち悪くねぇのかよ」

今更俺もホモなんですとは言いづらくて 素直じゃないとは思いながらも
思い続けて来た愛しい背中に ついつい悪態をついてしまった
隆一は 聞こえている筈なのに返事どころか 振り返ってこちらを見ようともしない

何か言ってくれよ 頼む…

嫉妬心からとはいえ 取り返しがつかない言葉を吐いてしまった後悔と
自分の気持ちを置き去りにされる惨めさで 目頭が熱くなってきて唇をかみしめた
これ以上 一言でも口を開いたら涙が零れ落ちそうだ

しばらくの沈黙の後
隆一が振り返って ベットの上に座っている俺の足元に跪いた
そして ゆっくりと両手を取って 俺の膝に乗せ上から自分の手で包み込んだ

「雅之 親指を中に入れて握るのはよせと言っただろう」
まるで小さな子供と話すように 下から顔を覗き込んで窘められた

学生時代 俺はこの握り方をした拳でケンカをして親指を骨折した事があった
それ以来隆一は 俺がクセで拳を握ってしまう度に言うようになった

見下ろす視線の先に 6年近く いつも見上げてきた隆一の顔がある
常にポーカーフェイスで辛辣な言葉を吐く隆一に 
こんな優しい扱いをされるのは初めてのような気がした

「相手がどんな人間であろうと 自分に思いを寄せてくれるその気持ちを 俺は嬉しく思う
お前が そういう事を解らないヤツだとは思っていなかったよ」
「…ちがっ」

表情はたいして変わらないが 淋しげな声のトーンで隆一を傷つけてしまったのだと解った
違うんだ!と叫びたかったが その前に涙腺が決壊する方が早くてボロボロと涙が零れてしまった

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